アルピニストで環境活動家の野口健さんが、ニセコを訪れた。
感想を一言で言えば、「ここは日本じゃない」。
ホテルが並ぶ街並みを見た瞬間、「目隠しされて連れてこられたら、どこだろうと思う」と言っていた。北欧チックな雰囲気があったり、アラスカのような匂いがしたり。宿泊施設のほぼ9割は外資系で、「映画のセットみたい」と表現する人もいるらしい。地元の方いわく「日本人にとっても外国、外国人にとっても外国」という言葉が妙にリアルに刺さる。
1泊600万円の部屋がある一方で、地元は赤字続き
ニセコのヒラフ地区では、坪単価が最高600万円にまで達している。野口さんが2003年にくっちゃん町に戻ってきた頃、ペンション街の土地は坪3万円だった。それが今や120万円。中心部は600万円。たった20年ちょっとでこの変貌ぶりはちょっと異常だ。
で、お金が動いているかというと、このエリアで年間1200億円が観光業で動いているそう。でも、その7割のお客さんが泊まるホテルから落ちる法人税がたった3億円。しかも固定資産税は20年で倍になったけど、増えた分の約80%は国からの地方交付税が減るかたちで相殺されて、実質的に地元に入るのは2割程度にしかならない。
さらに外国資本のリゾートが増えるたびに、水道などのインフラ整備は地元行政と住民の負担で賄わなければいけない。水道延長工事だけで85億円、しかも観光開発業者から費用を徴収する法律がないから全部地元持ちという構造的な問題がある。
1泊600万円の超ラグジュアリーな客室を持つホテルが街にドンと建っても、その売上は地元行政にはほとんど入ってこない。これが今のニセコの現実だ。
日本人観光客はわずか5%
宿泊客に占める日本人の割合、なんと5%。
日本人は「高いから」というのが正直なところで、外国人にとっては「海外と比べればまだ安い」という感覚らしい。加えてニセコの天然雪は世界的にも圧倒的なクオリティを誇るから、大陸や北米からのスキーヤーが次々と集まってくる。今年は中国人観光客が減った分、北米や台湾からが増えてトータルで7.2%増という状況だ。
物価は上がる、地価も上がる、税金も上がる。その結果、地元でずっと暮らしてきた住民がここで生活を維持するのが難しくなってきている。土地を売って、暮らしやすい都市部へ移っていく——そういう流れが静かに、しかし確実に起きている。
ここは「将来の日本の縮図」
野口さんがこの光景を見ながら思ったのは、「ここで起きていることが将来の日本だ」ということ。東京にいると外国資本の浸透ってなかなか目に見えにくい。でもニセコに来ると、その結末が一番分かりやすい形で現れている。
地元の方も「ニセコはすでに経済的植民地化されてしまっている」とはっきり言葉にしていた。
ニュージーランドはかつて同じ状況に直面して、途中から「外国人は土地を買えない」と方針転換した。ネパールも、インドと中国という大国に挟まれながら、外国人による土地取得を一切認めず、国籍の付与も厳しく制限している。小さな国ほど、そういった防衛策の重要性をよく分かっているのかもしれない。
日本でも外国資本による土地取得の問題は15〜20年前から議論されてきた。でも今もって、水源地・農地・防衛施設周辺といった最低限の場所すら、しっかりと守る仕組みが整っているとは言い難い。
ニセコはもはや遠い北海道の話じゃない。日本が上手に手を打てなかった先に待っている未来を、今まさにリアルタイムで見せてくれている場所なのかもしれない。










