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まずは「知る事」から始まる

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消費される物語と、批評としての神話

キャンベルという神話学者が示した「物語の要素論」というものがあって、スターウォーズはその典型的な作品として知られています。主人公が旅に出て、試練を乗り越え、帰還する——そのパターンに沿って作られた物語は確かに「消費されやすい」。今やAIにシナリオを書かせると、自動的にこの型通りの作品が出てくるくらい、普遍的なフォーマットになっています。

でも、消費される物語と神話は、根本的に違うものなんです。

消費される物語がエンタメとして私たちを楽しませてくれるものだとしたら、神話は「批評」として機能するもの。「気の持ちよう」ではどうにもならない、認識論じゃなくて存在論の次元で世界の真理を示すものが神話の本質だという考え方があります。

釈尊がいい例で、「人は死んだら終わり、文明も必ず終わる、この世界も必ず終わる」と説いた。これは救いのない話じゃなくて、虚偽の慰めを与えるのではなく、世界の本当の在り方を示す批評だったわけです。「必ず終わる」という認識の中に、むしろ本当の意味での生きる力を見出す——それが神話の仕事なんです。

深海誠が描くものが「神話的」な理由

新海誠監督の作品について、面白い切り口があります。彼のデビュー作『星の声』から一貫するモチーフ、「ここではないどこかに行きたい」という感覚。これって実は、ハイデガーが言うように言語を持つ人間なら誰でも逃れられない根本的な想像力の働き方なんです。

「ここ」という意識が生まれた瞬間、人は必ず「ここではないどこか」を想像してしまう。そしてそこへ到達したとしても、今度はその場所が「ここ」になって、また「ここではないどこか」を夢見てしまう。どこまで行っても満たされない——これが人間の心の構造上の真理です。

深海作品において、その「ここではないどこか」への扉として描かれるのが恋愛なんです。「この人のために死ねる」という感覚を持つ相手だけが、自分を別の世界へ連れ出してくれる。これは単なるラブストーリーじゃなくて、人間の根本的な存在の問いに触れている神話的な構造だと言えます。

そして近年の『すずめの戸締まり』では、さらに一歩踏み込んで「なぜ私たちは天変地異に遭うのか」というテーマへと進化している。偶然の災害ではなく、私たちが都市の中で積み重ねてきた「忘れること」の結果だと——これはもう完全に社会批評の域に達しています。

クリント・イーストウッドが教えてくれること

ではその社会批評を、エンタメとして成立させるにはどうすればいいのか。そのヒントがクリント・イーストウッドの映画『ハドソン川の奇跡(原題:Sully)』にあります。

この映画、表面上は「不時着水という決断をした英雄機長の話」として消費できる作りになっている。でも本当に見ると、主人公のサリー機長は一度も英雄然とした振る舞いをしない。英雄として祭り上げられても不快そうにしていて、「誰でも同じことをやる、ただそれをやっただけだ」と言い続ける。

つまりイーストウッドがやっているのは、人々が「英雄譚として気持ちよく消費できる」構造を意図的に用意した上で、その消費欲求そのものを静かに批判しているということです。バカにはわからないように作ってあるけど、見る人が見れば衝撃を受ける——そういう二重構造になっているんですね。

「傷をつける」という芸術の本質

ベンヤミンという哲学者は、物語を「シンボル」と「アレゴリー」に分けました。シンボルは「安全・便利・快適、脅かされない何か」として規定できるもの。一方アレゴリー——世界の本当の在り方——は「瓦礫の中に浮かび上がる一瞬の星座」のようなもので、言葉では定義しきれないし、経験の蓄積がない人には見えすらしない。

本当にいい芸術は「傷をつける」ものなんです。あなたが思っているような世界ではない、と。その傷によって、自分の想像を超える何かが一瞬顔を出す——それが芸術の核心だという考え方です。

誰にでも開かれていながら、奥行きがある

ここで重要な問いが生まれます。その「傷をつける」表現を、どうやって多くの人に届けるのか。一部の界隈だけに受けがいい作品はやがて閉じた内輪になるし、売れることだけを目指した作品は批評性を失う。かといって「絶対に売れなくていい」と決めたところで、生き続けることもできない。

答えは「誰にでも分かるものの中に、奥行きがある」ということです。エンターテイメントの才能を持ちながら、社会の全体性を見据えて人々を「縁」に立たせられる批評性を持つ——この両立こそが、今の時代に本当に難しくて、だからこそ価値があるものなんです。

社会がどんどん劣化していく中で、それでも諦めずに「傷をつけ続ける」表現者がいること。その細い継承を守ることが、今この時代に最も必要なことかもしれません。

上城 孝嗣

日本を愛する人と繋がりたい🇯🇵🌸毎日「気づき」を提供するために発信中! 嘘を教える教育や、メディアに破壊され続けてきた日本人の魂。まずは何事にも好奇心を持ち、世界にも目を向ける事。これまで知らなかった多くの事を学ぶと全てが繋がって真実が見えてきます。 「知らないのは恥ではない、知ろうとしないのが恥である」

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