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農業を”誇り”と言える国、言えない国
「イタリアは世界的な食料農業大国だ」──そう高らかに宣言したのは、現職のジョルジャ・メローニ首相です。
政治家が農業をこれほど正面から取り上げること自体、日本ではなかなか見られない光景ではないでしょうか。選挙のたびに「農業支援」が語られても、気づけば後回し。気づけば予算削減。そんな繰り返しを見てきた農家の方々にとっては、イタリアのニュースが眩しく映るかもしれません。
150億ユーロ超──前例のない規模の農業投資
メローニ政権が打ち出したのは、過去最大規模となる150億ユーロ(約2.5兆円)以上の農業投資です。これは単なる補助金のばらまきではなく、大きく3つの柱から構成されています。
① 若手農業者の支援 イタリアでも農業の高齢化・後継者不足は深刻な課題です。そこに対し、若い世代が農業に参入しやすくなるための制度設計と資金援助を積極的に展開しています。農業を「かっこいいキャリア」として社会的に位置づけ直す試みとも言えます。
② 技術革新の推進 AIやスマート農業、精密農業といったテクノロジーの導入を国家レベルで後押しします。農業を古いものとして見るのではなく、最先端の産業として育て直す発想です。
③ 再生可能エネルギーの農業活用 農地における太陽光や風力の活用を進め、農家が「エネルギー生産者」にもなれる仕組みを作っています。農業収入の多様化という観点からも、非常に重要な取り組みです。
生産コストの上昇から農家を守る”盾”
ロシアによるウクライナ侵攻以降、肥料・燃料・輸送費などの生産コストが世界中で急騰しました。この波はイタリアの農家にも直撃しましたが、メローニ政権はすぐに手を打ちました。
具体的には、農業用燃料の減税と輸入肥料の価格抑制策を導入し、農家が国際情勢の影響を直接受けにくい環境を整えたのです。
「農家がコストに追われて廃業する」という最悪のシナリオを食い止めることが、すなわち国民の食卓を守ることに直結するという認識が、政策の根底にあります。農業を「市場に任せればいい産業」ではなく、「国が守るべきインフラ」として捉えているわけです。
EUとの交渉でも”イタリアの農家”を前面に
EUとの農業予算交渉においても、メローニ首相はイタリアの利益を強く主張し、追加の農業予算を確保することに成功しています。
これは容易なことではありません。EU内では各国の利害が複雑に絡み合い、農業補助金の配分をめぐる交渉は熾烈です。それでも自国農業の重要性を正面から訴え、結果を出したことは評価に値します。
「コルティーヴァ・イタリア」──食の主権を守る法案
特に注目したいのが、「コルティーヴァ・イタリア(Coltiva Italia)」法案です。直訳すると「イタリアを耕せ」というタイトルで、食料主権の強化と伝統的な農業文化の継承を制度的に担保しようとするものです。
「食料主権」という概念は、単に食料を自国で作るというだけでなく、何を、どのように、誰が作るかを自分たちで決める権利を意味します。グローバルな食料サプライチェーンが脆弱であることが露呈した今、この考え方はますます重要になっています。
イタリアが守ろうとしているのは、パルミジャーノ・レッジャーノでもキャンティワインでも、オリーブオイルでもある。長年かけて築いてきた「本物の食」の文化そのものです。
日本への問いかけ
こうしたイタリアの姿勢を見ていると、どうしても日本の現状と比べたくなります。
日本の食料自給率はカロリーベースで約38%(2023年度)。先進国の中でも最低水準です。農家の高齢化は急速に進み、耕作放棄地は年々拡大しています。にもかかわらず、農業予算は削減傾向が続き、若い農業者への支援も十分とは言えません。
「農家を守ることは、国民の命を守ること」──この一言をどれだけの政治家が本気で言えるでしょうか。
食料安全保障は、もはや「農業問題」ではなく「国家の存続に関わる問題」です。イタリアの大胆な農業戦略が示すのは、政治のリーダーシップと明確なビジョンがあれば、農業は衰退産業ではなく成長産業になり得るということです。
日本にも、そんな覚悟を持った政治家が現れることを、切に願っています。
参考:イタリア農業・食料・林業・漁業省(MASAF)関連発表 / メローニ首相スピーチ











