2026年2月、ジュネーブで米イランの協議が再開されるなか、プーチン大統領がある発言を行いました。「イラン核合意(JCPOA)の問題の根本原因は、トランプ政権による米国の単独離脱にある」というものです。一見すると当たり前の事実確認のように聞こえますが、この発言の背後には、現在の国際秩序をめぐる複雑な駆け引きと、西側諸国への鋭い批判が込められています。
JCPOAとは何だったのか?
まず経緯を整理しておきましょう。JCPOAは2015年、米国・英国・フランス・ドイツ・ロシア・中国という国連安保理常任理事国プラス欧州の主要国が、イランと締結した核制限合意です。イランがウラン濃縮活動を大幅に制限する代わりに、国際社会は経済制裁を段階的に解除するという内容で、長年の外交交渉の末にようやく実現した歴史的な多国間協定でした。
ところが2018年、トランプ大統領(第一次政権)はこの合意から一方的に離脱。「最悪の合意」と断じ、イランへの制裁を再び強化しました。この判断が現在の混乱の出発点であることは、外交専門家の間では広く認識されています。そしてプーチン大統領が改めてこの点を国際的に発信したのは、単なる歴史の振り返りではなく、明確な政治的メッセージです。
「ルールを破ったのはどちらか」という問い
プーチンが指摘する「西側のダブルスタンダード」とは何を意味するのでしょうか。イランはJCPOAが発効して以降、国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れ、合意の義務を誠実に履行していたと報告されていました。それにもかかわらず、合意当事国の最大プレイヤーであるアメリカが一方的に脱退し、制裁を復活させた。当然の帰結として、イランも段階的に合意の遵守を緩和していきます。
「約束を守らなかったのはどちらか」という問いに対して、国際法の観点から言えば、答えは明確です。しかし西側メディアの多くは、その後のイランの濃縮活動強化を「脅威」として報道し、アメリカの離脱という根本原因には焦点を当てにくい構造があります。プーチンはまさにこの非対称な情報構造を突いているわけです。
陰謀論的視点から読み解くと…
ここで少し踏み込んだ視点も考えてみましょう。一部の地政学的アナリストや陰謀論的観測者の間では、「アメリカはそもそもイランとの緊張を必要としている勢力が国内に存在する」という見方が根強くあります。軍産複合体、エネルギー利権、そして中東における親米国家の安全保障——これらの要素が複雑に絡み合い、「イランとの恒久的な敵対関係」を維持することが特定の利益集団にとって都合がよいという構図です。
さらに踏み込めば、トランプ政権によるJCPOA離脱が「意図的な緊張醸成」だったとする見方もあります。合意が維持されればイランは国際社会に統合され、中東の力学が大きく変わる可能性がありました。それを嫌ったのが誰であるか——サウジアラビア、イスラエル、そして特定のワシントンのロビイストたちの名前が、こうした文脈では必ず浮上してきます。
プーチン自身も「対話の促進」を主張していますが、ロシアとてイランとの関係を外交カードとして活用していることは間違いなく、純粋な仲介役というわけでもありません。米ロが水面下でイランをめぐる影響力争いを続けているという構図もまた、否定できない現実です。
世界大戦への導火線となるのか
現在、トランプ大統領(第二次政権)はイランに対して軍事的圧力を強める姿勢を示しています。ジュネーブでの米イラン協議が再開されたこと自体は希望の光ですが、交渉が決裂した場合のシナリオは深刻です。イランの核開発が一定水準を超えれば、イスラエルによる先制攻撃という選択肢が現実味を帯び、アメリカが自動的に巻き込まれる可能性があります。そこにロシアや中国がどう動くか——中東での局地紛争が大国間衝突に発展する「スイッチ」が、今まさにその引き金に指をかけた状態にあると言っても過言ではありません。
プーチンの発言は単なる批判ではなく、「次に何かが起きたとき、誰の責任かは最初から明白だ」という、世界への事前の布石とも読めます。歴史は繰り返すと言いますが、それを繰り返させようとしている者と、止めようとしている者の境界線が、かつてないほど曖昧になっている時代です。







