アメリカ議会の公聴会といえば、民主主義の透明性を体現する場のはずだ。だが2025年、下院監視委員会で起きたある一幕は、そんな建前を木っ端微塵に吹き飛ばした。マイクが拾ったのは、証言台に座る大富豪への、弁護士からの”ささやき脅迫”だった。
ホットマイクが暴いた「口止め」の瞬間
証人席に座っていたのは、レス・ウェクスナー。ヴィクトリアズ・シークレットやバス&ボディワークスを擁するリミテッド・ブランズの創業者であり、フォーブスが一時「オハイオ州最大の富豪」と評した人物だ。彼の隣に控えていた弁護士、マイケル・リービーがうっかりオンのままになっていたマイクに向かってこう漏らした。
「5語以上答えやがったらぶっ殺す」
映画の台詞ではない。議会の公聴会で、実際に拾われた実音声だ。陰謀論界隈が狂喜乱舞したのは言うまでもないが、驚くべきことに主流メディアでさえこの音声を無視できなかった。なぜなら、この場面があまりにもマフィア映画的すぎたからだ。
ウェクスナーとエプスタイン──「詐欺被害者」という名の共犯疑惑
ジェフリー・エプスタインといえば、世界中の権力者・著名人を巻き込んだ性的人身売買ネットワークの主犯として知られる。そのエプスタインに、桁外れの資金と権限を与えていたのがウェクスナーだった。
1980年代後半から90年代にかけて、ウェクスナーはエプスタインに対して**全権委任状(パワー・オブ・アトーニー)**を付与。これはただの投資顧問契約ではない。不動産の売買、銀行口座の管理、契約締結まで、文字通り「何でもできる」白紙委任だ。ニューヨークの豪邸(のちにエプスタインの犯罪の舞台となるマンハッタンタウンハウス)も、もともとウェクスナーから譲渡されたものである。
ところがウェクスナー自身は一貫して「自分もエプスタインに騙された被害者だ」と主張している。確かに、エプスタインが彼の資産から数千万ドル規模を横領していた証拠は存在する。しかし陰謀論的な見方をすれば、「騙された」という主張そのものが、より深い関与を隠すための煙幕ではないかという疑念は拭えない。
なぜなら、あれほど周到なビジネスマンが、何年間にもわたって”詐欺”に気づかなかったというのは、どう考えても不自然だからだ。
議会が掘り起こそうとしているもの
今回の下院監視委員会によるウェクスナー証言は、エプスタイン事件の「本当の依頼人」「本当のネットワーク」を解明しようとする一連の動きの一環だ。エプスタインの顧客リスト、いわゆる「エプスタイン・ファイル」の公開要求は超党派で続いており、一部文書はすでに裁判所命令で開示されている。
しかし核心部分は依然として黒塗りのまま。そこに登場する名前が、現役政治家・著名経営者・王族にまで及ぶとされているからこそ、「なぜ開示されないのか」という疑問が陰謀論の温床になる。
そしてウェクスナーは、そのネットワークの入り口に立つ人物として、最も重要な証人の一人と目されている。彼が5語以上しゃべれない理由が、そこにあるのかもしれない。
弁護士の一言が示すもの
「5語以上答えたら殺す」という言葉を、単なる過激な比喩として片付けることもできる。だが、これがアメリカ議会の公聴会で、しかもホットマイクに拾われた状況を考えると、背筋が寒くなる。
これは弁護士が依頼人を守ろうとしている、のではなく、依頼人が何かを”しゃべらないよう”に管理されている構図に見える。誰が弁護士に指示を出しているのか。ウェクスナーの口が封じられることで、誰が守られるのか。
エプスタイン事件は2019年の獄中死以降、多くの「疑問」が未解決のまま宙に浮いている。自殺か他殺か。監視カメラはなぜ機能していなかったのか。そして最大の謎──彼のネットワークを実際に動かしていたのは誰なのか。
ウェクスナーの証言は、その答えに最も近い場所にあるはずだった。それを「5語以内」に封じ込めようとする者がいる──それだけで、この事件がいかに根深いかを物語っている。
マフィア映画の世界、などと笑い飛ばせればよかったのだが。







