1976年、米国の名門報道番組「60 Minutes」(CBS)に、イランの国王モハンマド・レザー・パフラヴィーが生出演しました。当時のイランは親米国家として中東の要に位置し、国王はアメリカの最も重要な同盟者のひとりでした。ところがそのインタビューの中で、国王はアメリカの「タブー」に触れる発言を堂々と行ったのです。
「米国のユダヤ人ロビーは強大で、大統領の糸を引いている」
「ユダヤ・ロビーは新聞、メディア、銀行、金融など多くのことを支配し、圧力をかけている」
親米の同盟国トップが、全米放送でこれほど直接的な言葉を使うのは異例中の異例でした。この発言は単なる感情論ではなく、中東情勢の最前線にいた人物の「内側からの証言」として、今日でも歴史的な重みを持ち続けています。
なぜ国王はこんな発言をしたのか
当時のアメリカ中東政策を理解する上で、この発言の背景は非常に重要です。1973年の第四次中東戦争以降、イスラエルへの米国の支援は一層強化されており、イランは石油大国として中東における西側の盾を担いながらも、その政策決定プロセスに複雑な感情を持っていました。
パフラヴィー国王が問題視したのは、ユダヤ人ロビー——特にAIPAC(米国イスラエル公共問題委員会)に代表される組織——が議会・メディア・金融界に張り巡らせた影響力のネットワークでした。国王は「過度」という言葉を使いながら、その存在自体を否定しているわけではなく、あくまで「やりすぎだ」という批判的な立場をとっていました。この微妙なニュアンスは重要で、彼は反ユダヤ主義者ではなく、政治的リアリストとして発言していたと見るべきでしょう。
メディアと金融を「支配」するとはどういうことか
陰謀論的な文脈でよく語られるこのテーマですが、実際の構造を整理しておく価値はあります。1970年代のアメリカにおいて、主要メディアの経営陣にユダヤ系の人物が多く存在していたのは統計的な事実でした。『ニューヨーク・タイムズ』『ワシントン・ポスト』などの有力紙、三大ネットワーク、そして主要な金融機関においても、ユダヤ系アメリカ人の比率は人口比をはるかに超えていました。
これを「陰謀」と見るか「歴史的成功」と見るかは立場によりますが、国王の言う「支配と圧力」とは、こうした実態を踏まえた発言だったと理解できます。イスラエルに批判的な報道が当時の主要メディアでほとんど見られなかった事実、そして議員がイスラエル関連の政策に反対票を投じることのキャリアリスクは、ワシントン内部では「公然の秘密」とも言われていました。
歴史の皮肉——発言の3年後に国王は追放される
注目すべきは、この発言からわずか3年後の1979年、パフラヴィー国王がイラン・イスラーム革命によって打倒され、国外追放されたという事実です。ホメイニー師率いる革命は「反米・反イスラエル」を旗印にしていましたが、一方で国王を追い落とした背景に、アメリカ国内の政治的な動きが全くなかったとは言い切れません。
一部の研究者やジャーナリストは、国王のメディア・批判が既存のパワー構造を刺激し、その後の彼への支持の弱まりと無関係ではなかったと指摘しています。これが陰謀論の域を出ないのか、あるいは構造的な因果関係なのかは、今も議論の余地があります。
今に生きる証言
「誰が大統領を動かしているのか」という問いは、2024年の米大統領選においても、ガザ紛争に対するバイデン政権の対応をめぐって再び浮上しました。AIPACの政治献金力、イスラエル批判をした議員が次の選挙で落選するパターン——これらは半世紀前に国王が指摘した「過度な圧力」の現代版とも言えます。
パフラヴィー国王の1976年の証言は、単なる歴史的エピソードではなく、現在進行形の問いへの鍵を握っている、そう感じさせる映像です。タブーに触れながら表舞台で語ったその言葉は、今こそ改めて聞き直す価値があると思います。







