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まずは「知る事」から始まる

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あなたが毎日口にしているスナック菓子、炭酸飲料、シリアル——それらが「中毒性を持つ有害食品」として、大手食品メーカーを法廷に引きずり出す事態になっています。2024年末から2025年にかけて、アメリカで超加工食品(Ultra-Processed Food:UPF)をめぐる訴訟が相次いで起きており、その動向は世界中から注目を集めています。


そもそも「超加工食品」って何?

まず「超加工食品」という言葉に聞き慣れない方も多いかもしれません。これはブラジルの研究者が提唱した「NOVA分類」という食品分類システムに基づく概念で、家庭の台所では通常使わないような添加物——香料、乳化剤、人工甘味料、加工デンプンなど——を大量に使って工業的に製造された食品のことです。

具体的には、ポテトチップスやコーラ、チョコレート菓子、インスタントラーメン、市販のシリアル、加工肉(ハム・ソーセージ)、ファストフードなどが該当します。「加工食品」というと缶詰や冷凍食品も含まれますが、超加工食品はその中でも特に高度に工業化されたカテゴリーに位置付けられます。

驚くべきことに、アメリカの食品市場の約70%は超加工食品が占めているとも言われており、米国人の食事カロリーの60%以上が超加工食品由来という調査結果もあります。もはや「特別なジャンクフード」ではなく、日常食の大部分を占めているのが現実です。


大手11社を相手取った「歴史的訴訟」の全容

2024年12月2日、アメリカのカリフォルニア州サンフランシスコ市は、食品大手11社を公衆衛生上の危機を招いたとして提訴しました。訴えを起こしたのはサンフランシスコ市検事のデビッド・チウ氏で、64ページにわたる訴状には、各社の製品が肥満、2型糖尿病、心血管疾患などの慢性疾患を引き起こしながらも、企業がその有害性を知りながら販売し続けたという主張が盛り込まれています。

訴えられた企業は以下の11社です。

  • コカ・コーラ(Coca-Cola)
  • ペプシコ(PepsiCo)
  • ネスレ(Nestlé)
  • クラフト・ハインツ(Kraft Heinz)
  • モンデリーズ・インターナショナル(Mondelez International)
  • ゼネラル・ミルズ(General Mills)
  • マース(Mars Inc.)
  • ケラノバ(Kellanova)
  • WKケロッグ(WK Kellogg Co.)
  • ポスト・ホールディングス(Post Holdings)
  • コナグラ・ブランズ(Conagra Brands)

コカ・コーラやペプシコといった清涼飲料の巨人から、オレオやキットカット、コーンフレークを製造するブランドまで、まさに「食品業界の顔」とも言うべき企業が軒並み名指しされています。

チウ市検事は、これらの企業が「食品への中毒性をあえて作り出し、消費者——特に子どもたち——が本来であれば求めないものまで欲するように仕向けた」と批判しています。さらに、健康上の警告を表示せず、製品を健康的であるかのように虚偽の広告を展開し、低所得層や有色人種コミュニティを標的にしたマーケティングを行ったことも問題視されています。

市側はこれらの企業に対し、欺瞞的なマーケティングの停止と、民事制裁金の支払いを求めています。


個人原告も登場——16歳で糖尿病になった少年の告発

サンフランシスコ市の集団提訴と前後して、2024年12月10日には個人による訴訟も起こされました。訴えを起こしたのはペンシルベニア州に住むブライス・マルティネス氏で、クラフト・ハインツ、モンデリーズ、コカ・コーラなどの製品を幼少期から日常的に摂取した結果、わずか16歳で2型糖尿病と非アルコール性脂肪性肝疾患を発症したと主張しています。

担当弁護士によれば、この種の「超加工食品を原因とする個人の健康被害訴訟」は初めてのケースだとのことです。かつてタバコ業界が「中毒性や健康被害を知りながら販売を続けた」として大規模訴訟に発展したように、食品業界でも同様の法的攻防が始まっていると見る専門家も少なくありません。


科学が示す「超加工食品の恐怖」——がんリスクまで

訴訟の根拠となっているのは、近年急速に蓄積されてきた科学的エビデンスです。

2023年にPubMed(米国国立医学図書館の論文データベース)に掲載された査読済みの研究では、超加工食品の摂取量が10%増加するごとに、がん全体のリスクが13%上昇するという驚きの結果が示されました。特に大腸がんや乳がんとの関連が強く指摘されており、2025年に発表された新たな研究でも、若年層における大腸がんの増加と超加工食品の関係が確認されています。

さらに、超加工食品の多い食事は以下のような慢性疾患との関連が報告されています。

  • 肥満・過体重:食欲を刺激する成分が過食を誘発
  • 2型糖尿病:血糖値を急激に上昇させる高GI食品が多い
  • 心臓病・心血管疾患:トランス脂肪酸や過剰な塩分が動脈に負担
  • うつ病・精神疾患:腸内フローラへの悪影響が精神機能に波及
  • 脂肪肝(非アルコール性):果糖の過剰摂取が肝臓に蓄積

2025年12月には、医学の権威ある学術誌『Lancet(ランセット)』が「超加工食品シリーズ」を特集し、健康影響の科学的分析・政策への提言・食品企業のパワー構造という3つの論文を掲載。アカデミアにおける議論はさらに活発化しています。


政治も動き出した——「アメリカを再び健康に」

この訴訟が注目を集めているもう一つの背景には、アメリカの政治的な動きがあります。

2025年1月、トランプ政権のもとで保健福祉長官に就任したロバート・F・ケネディ・ジュニア(通称RFK Jr.)は、超加工食品や食品添加物を「poison(毒)」と呼び、「これらが米国人、特に子どもたちの肥満・糖尿病・慢性疾患の急増を引き起こしている」と断言。「Make America Healthy Again(アメリカを再び健康に)」という運動を展開し、加工食品に対する取り締まり強化を推進しています。

2025年4月には石油由来の食品用着色料8種類を2027年までに段階的に廃止することを発表。7月には、コカ・コーラがアメリカ国内でコーンシロップではなくサトウキビ由来の砂糖を使用することに同意したとトランプ大統領が明らかにしました。

州レベルでも動きは活発で、カリフォルニア州では2025年6月に学校給食から超加工食品を段階的に廃止する州法が可決されました。2032年までに「特に有害な超加工食品」を学校給食から全廃するという、非常に踏み込んだ内容です。


食品業界の反論——「科学的定義すら定まっていない」

もちろん、訴えられた企業側や業界団体は強く反発しています。

食品・飲料メーカーが加盟する業界団体「コンシューマー・ブランズ・アソシエーション」は、「超加工食品の科学的定義については、現在のところ合意されたものはない」と主張しています。また「加工されているという理由だけで食品を不健康と分類し、栄養素の含有量を考慮せずに食品を悪者扱いすることは、消費者に誤解を与え健康格差を悪化させる」とも批判しています。

確かに「超加工食品」という概念そのものは比較的新しく、研究者の間でも何をどこまで超加工食品と定義するかについて議論が続いています。プロテインバーや果汁ジュース、代替肉なども定義次第では超加工食品に含まれる可能性があり、この点は訴訟の行方にも影響を与えそうです。

FDAとUSDAは2025年7月に超加工食品の統一的な定義策定に向けてデータ収集を開始しており、今後の定義づけがこの問題の鍵を握りそうです。


「第二のたばこ訴訟」になるのか

今回の超加工食品訴訟は、1990年代から2000年代にかけて社会を揺るがしたたばこ訴訟と比較する声が少なくありません。タバコ産業もかつては「健康被害の証拠が不十分」「個人の選択の問題」と主張し続けましたが、最終的には巨額の賠償金支払いと大規模な規制強化を余儀なくされました。

食品と健康の関係はタバコほど単純ではなく、「何を食べるか」は個人の自由でもあります。しかしながら、企業が中毒性を意図的に設計し、健康への悪影響を認識しながら販売を続けていたことが立証されれば、法的・社会的責任を問う声はますます強まるでしょう。


日本への影響と私たちができること

アメリカでの動きは遠い話のようで、実は日本にとっても他人事ではありません。日本の食品市場にも超加工食品は溢れており、コンビニや自販機で手軽に買えるものの多くがこのカテゴリーに該当します。

今すぐ完全に避けることは現実的ではないかもしれませんが、以下のような意識を持つことが第一歩になります。

  • 食品ラベルを読む習慣をつける:原材料欄に聞き慣れない添加物が多い食品は注意
  • 自炊を増やす:素材から調理する食事は自然と超加工食品を減らせます
  • 飲料に気をつける:砂糖入り飲料は摂取量の多い超加工食品の代表格
  • 「食べやすすぎる」食品に注意:止まらなくなる食感・味は中毒性設計のサインかもしれない

訴訟の結末がどうなるかは今後の展開次第ですが、「私たちが何を食べているのか」を改めて問い直す大きなきっかけになっているのは間違いありません。スーパーやコンビニの棚を眺めるとき、少しだけ立ち止まって成分表示を見てみることから始めてみてはいかがでしょうか。


参考:Business Insider Japan、ロイター(2024年12月)、Sustainable Japan(2025年12月)、ジェトロ(2025年12月)

大和京子

子供を守るために日本をよくしたいと願う母です! 1人でも多くの人達に思いが届きますように。

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