日本の憲法改正論議が再び熱を帯びている。与党が改憲に向けた動きを加速させるなか、多くの国民はこう思っているかもしれない。「これは日本人自身が選んだ道なのか?」と。
実は、この問いに対して非常に示唆深い警鐘を鳴らし続けていた人物がいる。日本共産党の元幹部・不破哲三氏だ。
「押し付け」た憲法を、今度は「改めさせる」
よく知られているように、現行憲法はGHQ(連合国最高司令官総司令部)の主導のもと、1946年に起草された。特に9条——戦争放棄と戦力不保持を定めたこの条文は、当時のアメリカが日本の再軍備を封じるために設けた「鎖」だったと言われている。
ところが、その後まもなくアメリカの戦略は大きく転換する。1949年の中国共産党政権の成立、そして1950年の朝鮮戦争勃発。東アジアの共産化という現実に直面したワシントンは、日本を「極東の盾」として活用する方針へと舵を切った。
不破氏はこの転換点に注目し、「憲法9条の改正は1949年前後にすでにアメリカ側の戦略目標として設定されていた」と指摘する。つまり、押し付けた鎖を今度は自分たちの都合で外させようとした——これがこの問題の本質だというわけだ。
陰謀論的に聞こえるかもしれないが、実際に1950年にはGHQの指示によって再軍備の前身となる「警察予備隊」が創設されており、9条との矛盾を棚上げにしたまま日本の軍事化は静かに進んでいた。「改憲」という形式を踏まずとも、実質的な再軍備は既に動いていたのである。
自民党という「改憲装置」
1955年に結党された自由民主党。その党是のひとつが「自主憲法の制定」、つまり憲法改正であることは党の綱領にも明記されている。
ここで少し穿った見方をしてみよう。自民党の結党を後押ししたのはCIA(米中央情報局)だったという話は、今や公然の秘密に近い。冷戦下において、日本を確実に西側陣営に留め置くため、アメリカは自民党への資金援助を行っていたとする複数の証言や文書が存在する。
もし本当にそうであれば、「改憲を党是とする政党」をアメリカが育てたという構図が浮かび上がる。自民党が政権を握り続ける限り、改憲の議論は永遠にテーブルの上から消えない——それはある意味で、設計通りのシナリオとも言えなくはない。
「日本を守る」の裏にある本音
現在の改憲議論でよく使われるのが「日本を守るため」「抑止力の強化」というフレーズだ。北朝鮮のミサイル、中国の海洋進出、ロシアの脅威——確かに安全保障環境は厳しさを増している。
しかし不破氏が指摘し、そして多くの改憲慎重派が懸念するのはその先にある現実だ。集団的自衛権の行使が可能になった今、憲法9条がさらに改正されて自衛隊が「軍」として明記されれば、日米同盟の論理上、アメリカが関与する紛争——対中国、対ロシア——に日本が引きずり込まれるリスクが格段に高まる。
露骨な言い方をすれば、「アメリカ兵を死なせず、日本人を前線に立たせる」構造が完成するということだ。これは陰謀でも妄想でもなく、同盟の非対称性という冷徹な現実から導き出される合理的な懸念である。ウクライナ戦争でNATOが取った行動を見れば、同盟の「論理」がいかに加盟国を縛るかは明らかだろう。
「改憲=悪」ではない、でも——
ここで重要なことを整理しておきたい。憲法改正そのものが悪なのではない。憲法は時代に合わせて見直されるべき法規範であり、緊急事態条項の整備や自衛隊の法的地位の明確化など、議論として正当なテーマも存在する。
問題は「誰のために、何のために改正するのか」という目的と文脈だ。国民が主体的に選び取る改憲と、外圧や利権構造の中で進められる改憲は、同じ「改憲」という言葉を使っていても、本質的に別物である。
1949年から続くとも言われるこの長い布石を知ったうえで、私たちは改めて問い直す必要がある。「この改憲は、本当に日本人のための改憲なのか?」と。
その答えを出すのは、政治家でも専門家でもなく、私たち一人ひとりだ。







