Skip to content

まずは「知る事」から始まる

Menu

「夜明けの晩に、霊は灯る」

この詩的なサブタイトルが、作品全体のトーンを静かに告げている。夜と朝のはざま、闇がもっとも深くなる瞬間にこそ、人の魂は燃え上がる。本作はそんな時間の感覚を、カメラという道具を通して丁寧にすくい上げたドキュメンタリー映画だ。

6人の職人たちが織りなす、魂の肖像

『日ノ本職人衆・剣 〜TSURUGI〜』は、日本各地に生きる6人の伝統職人たちを追った長編ドキュメンタリーである。刀鍛冶、漆職人、陶芸家、染織師、木工師、左官職人──それぞれが異なる素材と向き合いながら、同じ一点を見つめている。「己の手で、本物を生み出す」という、揺るぎない使命だ。

現代社会において、彼らの存在はある種の矛盾を孕んでいる。大量生産・大量消費が当たり前となった時代に、何十年もかけて技を磨き続けること。AIやロボットが人間の仕事を代替しつつある今、人間の手の温もりにこだわること。そこには合理性や効率の話では語り切れない、もっと根源的な何かがある。

映画のタイトルに込められた「剣(TSURUGI)」という言葉は、単なる刃物の比喩ではない。日本において剣はかつて、魂の依り代とされてきた。神社に奉納され、武士の誇りを体現し、断ち切ると同時に守るものでもあった。この映画における「剣」もまた、職人たちの技そのものを指す象徴として機能している。鍛え抜かれた技術は、どんな外圧にも折れない刃となる、という意味において。

人間と機械のあいだで

6人の職人たちが共通して直面しているのは、「機械にできることと、人間にしかできないことの境界線」という問いだ。

たとえば、漆職人は語る。「機械で塗ったものと、手で塗ったものは、見た目ではほとんど区別がつかない。でも、10年後、20年後が違う。手の温度と湿度が、漆の分子の並び方を変えるんです」。それは科学的に証明されているわけではないかもしれない。それでも彼は、確信を持ってそう言い切る。長年の経験が積み上げた、揺るぎない直感として。

刀鍛冶の場面では、炉の炎と職人の息遣いが交互に映し出される。鉄を打つ音が、まるで心臓の鼓動のように響く。カメラは決して急がない。その「待つ」という行為そのものが、機械との最大の違いかもしれない。機械は最適なタイミングを数値で判断するが、人間は「感じて」判断する。その差は、技術の優劣ではなく、根本的な存在の在り方の違いだ。

伝統は「守るもの」ではなく「生き続けるもの」

この映画が単なる「日本の伝統文化を紹介するドキュメンタリー」にとどまらない理由は、職人たちの言葉に未来への視点が宿っているからだ。

木工師の一人はこう言う。「伝統を守ろうなんて思ったことはない。ただ、今日いちばんいい仕事をしようとしているだけ。その積み重ねが、気づけば伝統になっているんじゃないか」。この言葉は軽やかでありながら、深い。伝統とは博物館の中で保存されるものではなく、現在進行形で「生きている」ものであるという主張が、さらりと込められている。

一方で、後継者問題という現実も映画は正面から取り上げる。6人の職人のうち、明確な弟子を持つ者は2人しかいない。「自分の代で終わるかもしれない」と口にする職人の表情は、悲壮でも達観でもなく、ただ静かな覚悟を湛えている。その静けさが、見ている者の胸に長く残る。

物質と精神、そのあいだに宿る「もの」

日本語の「もの(物)」という言葉には、かつて「霊的な存在」という意味も含まれていた。「もののけ」「もののあわれ」——目に見えない何かを感じ取る感性が、日本の文化の底流には脈々と流れている。

この映画のサブタイトル「夜明けの晩に、霊は灯る」は、そうした感性への深いリスペクトから来ているのだろう。職人が作り上げた器や刃や壁には、ただの物体以上の何かが宿る。それを「霊」と呼ぶか「魂」と呼ぶか「技」と呼ぶかは人それぞれでいい。ただ、そこに「何か」があることは、映像を通じて確かに伝わってくる。

いにしえの心を、未来へ

映画の最後、カメラはそれぞれの職人の手をクローズアップで映す。節くれだった指、皮膚に染み込んだ色、小さな傷跡。そこには履歴書には書けない時間が刻まれている。

『日ノ本職人衆・剣 〜TSURUGI〜』は、懐古主義の映画ではない。「昔はよかった」と嘆く映画でもない。人間が人間であることの根拠を、もう一度問い直す映画だ。効率や利便性の向こう側に何があるのか。技術の進化が加速する時代に、私たちは何を手放し、何を手放してはならないのか。

職人たちの仕事を見ていると、なぜか自分自身の生き方について考えさせられる。あなたにとっての「剣」は何か。磨き続けている何かが、あなたにはあるか。

その問いを、この映画はやさしく、しかし確かに突きつけてくる。


『日ノ本職人衆・剣 〜TSURUGI〜』公開情報は公式サイトをご確認ください。

上城 孝嗣

日本を愛する人と繋がりたい🇯🇵🌸毎日「気づき」を提供するために発信中! 嘘を教える教育や、メディアに破壊され続けてきた日本人の魂。まずは何事にも好奇心を持ち、世界にも目を向ける事。これまで知らなかった多くの事を学ぶと全てが繋がって真実が見えてきます。 「知らないのは恥ではない、知ろうとしないのが恥である」

Sponsor

人気記事ランキング